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鈴木修氏の経営者としての軌跡を、軽自動車という日本独自のクルマ文化を切り口に描いた評伝です。鈴木氏は国内四輪自動車メーカーとは異なるニッチながら決定的なポジションを築いた企業、スズキ株式会社を率い、軽自動車市場での勝負を軸にグローバル展開までリードした人物であり、同書ではその「知られざる」側面に焦点が当たっています。

まず構成面において、本書は巻頭から終章にかけて章立ても明快で、「長い旅の途中で」「終戦と鈴木道雄の教え」「倒産の危機」「失意のアメリカと復活のジムニー」「インド進出とHY戦争」など、鈴木氏が経験した多彩な局面を年代順に編まれています。 特に「軽自動車を作った男」「インド進出」「ワゴンR」「トヨタ・ダイハツとの仁義なき戦い」など、自動車業界の激しい競争構造や事業戦略を背景に、鈴木氏の意思決定が鮮明に記されています。

次に内容面の注目点として、鈴木修氏の経営姿勢とその転換点に迫る記述があります。例えば1970年代半ば、スズキ社は排ガス規制の強化や技術開発の遅れから倒産の危機に直面しました。その中で鈴木氏が取った現場視点の経営判断、現場からの情報収集、人材育成の姿勢などが浮かび上がっており、経営学・マネジメントに興味を持つ読者には格好のケース研究となります。 また、インドという巨大市場に早期に着目し、現地法人設立や合弁パートナーとの提携、さらには世界展開という視点を含めたグローバル戦略が、いかにして「小さな巨人」と呼ばれるゆえんであったかが描かれています。

さらに人間ドラマとして鈴木氏の生涯も丹念に追われています。中央大学法学部を卒業後、銀行勤務を経て1968年にスズキに入社。先代の娘婿として入るという家本位の企業文化と、社長として外部出身者という立場のギャップ。その中で「配属1週間で異動」など苦難も経験しました。 その後はガン罹患、二度の倒産危機、米国・欧州での提携交渉など、華やかな成功だけではなく「もう一回這い上がる」局面も書かれています。

次の三点が挙げられます。第一に「ニッチを制する」視点。軽自動車という誰もが主戦場と見ていなかった市場で存在感を高めた戦略から、メイン市場ではなく代替市場を狙う経営手法が鮮やかに描かれています。第二に「現場主義と人材重視」。鈴木氏が経営トップであっても、全国の営業店・保守現場に足を運び、顧客の声を吸い上げたという姿勢が複数ページにわたり紹介されています。 第三に「グローバル展開と提携交渉のリアリティ」。米国のGeneral Motors、欧州のVolkswagenとの資本提携、インド市場での合弁事業など、世界の自動車業界における駆け引きが経営者の視点から掘り下げられています。

最後に本書の読みどころとして、ただ成功譚に終わらず「危機・挫折・再挑戦」のストーリーが含まれている点を強調します。典型的なトップ経営者伝では語られがちな勝利の連続ではなく、むしろ「倒産の瀬戸際」「健康危機」「異文化提携の壁」といった逆境の山をいかに乗り越えたかを描く点に価値があります。こうした視点は、現代の経営者・マネジメント層にとって、既存市場の先を読む力や危機対応力を考える契機となります。

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