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岐阜県を走っていた名鉄谷汲線を中心に、日本の地方鉄道の歴史と社会的背景を深く掘り下げた書籍です。著者の大島一朗氏は、谷汲線の開業から廃線までの経緯を丹念に追いながら、地域社会や経済、文化との関わりを詳細に描いています。

谷汲線は、かつて岐阜県の大垣市と谷汲村を結んでいた名古屋鉄道の支線であり、沿線住民の生活に密着した交通手段として長年親しまれてきました。特に谷汲山華厳寺への参拝客輸送において重要な役割を果たしており、地域の観光振興にも寄与していました。しかし、モータリゼーションの進行や人口減少などの影響により、利用者数が減少し、2001年に惜しまれつつ廃線となりました。

本書では、谷汲線の技術的な側面や運行形態、車両の変遷など、鉄道ファンにとって興味深い情報が豊富に盛り込まれています。さらに、沿線地域の住民や関係者へのインタビューを通じて、鉄道が地域社会に与えた影響や、廃線後の地域の変化についても丁寧に描写されています。これにより、単なる鉄道の歴史書にとどまらず、地方の暮らしや文化、経済の変遷を知る手がかりとなる一冊となっています。

また、谷汲線の歴史を通じて、日本の近代化や戦後復興、高度経済成長期の地方社会の変容など、広範な社会的背景にも触れられており、鉄道を切り口に日本の近現代史を俯瞰することができます。特に、地方鉄道が果たした役割や、その衰退が地域にもたらした影響についての考察は、現代の地域活性化や公共交通のあり方を考える上でも示唆に富んでいます。

本書は、鉄道愛好家はもちろんのこと、地域史や社会史に関心のある読者にとっても価値の高い資料となっています。谷汲線という一つのローカル線の物語を通じて、日本の地方社会の過去と現在、そして未来を考えるきっかけを提供してくれます。

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