ちくま文庫、技術書、政治学書、日本文学類を取扱

何があるか 底の抜けた国で〈私〉を生きるために」は、菊谷和宏氏による講談社選書メチエ「社会三部作」の完結編です。本書は、現代日本社会の分断と個人の孤立を背景に、「社会」の根底にあるものを問い直す試みとなっています。

著者は、現代日本において「好況」や「経済成長」といった言葉が庶民の実態とかけ離れ、科学的事実を無視した「安全・安心」が喧伝されるなど、虚構が現実に取って代わっていると指摘しています。さらに、コロナ禍における「ソーシャル・ディスタンス」の受容を例に、人々が互いに共に生きる感覚を失っていると述べています。

本書では、トクヴィル、デュルケーム、ベルクソンといった思想家の議論を通じて、社会の成立と個人の関係性を探求しています。特に、デュルケームの道徳教育論を引用し、社会を成す個人の道徳性や意志の自律性が強調されています。また、民主主義の基盤として、個々人の合意ではなく、人間としての生の事実と相互の生かし合いが重要であると論じられています。

著者自身のがんとの闘病経験が本書の背景にあり、「未完の生を引き継ぎ、創造的で自由な生を切り開く」ことの重要性が語られています。本書は、社会の根底にある「生」という事実と、それを支える相互の関係性を再認識し、分断された現代社会において新たな共生の道を模索する一冊となっています。

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