ケン・フォレットや世界史や司馬遼太郎類を現金化

江戸時代における捕鯨を舞台に、少年から男へと成長していく主人公の物語を描いた力作です。物語の冒頭で語られるのが「―権左に銛打つことならず―」という言葉。これは、漁村・勝山で誰も手を出せないとされてきた伝説の巨鯨「権左」を巡る宿命を知らせる言葉として物語の根底に据えられています。

物語の主人公は、勝山漁村に生まれた少年・吾一。彼は父・重吉を尊敬し、鯨組の頭領になることを夢見ていました。ところが、重吉が不漁から逃れるため村の掟を破って「権左」に挑んで大きな犠牲を出し、命を落としてしまいます。吾一はその責任を問われ、村を追われる身となり、鯨とは無縁の江戸で暮らすことになります。 それでも「権左」の存在を忘れられず、やがて彼はその巨鯨を取るための秘策を思いつきますが、それは幕府に禁じられた手段を含む危険な挑戦でもありました。

捕鯨という職業を通じて、漁村、江戸という二つの舞台で主人公が自らの存在を模索していく点にあります。漁村では集団での闘い、掟や共同体の価値観、そして自然との共生という厳しい現実が描かれ、江戸では職に就き、知恵を働かせ、愛情を知るという「成長」のプロセスが丁寧に描かれています。ブログの読書感想によれば「鯨漁には３００人くらいの大きなチームで挑むんですね。…船も何艘にも分かれてたり、頭領以下の格付けもあったり。」と、漁業のリアルな描写も読者の印象に残っています。

文章のリズムとしては、わかりやすく前のめりで読み進められるという声がある一方、「文章が粗い」という指摘も少数ながらあります。例えば「ストーリーは単純で素直。でも文章が粗い。…読み進めていくほどに少し気になっていく」というレビューも存在しています。 そのため、時代小説ならではの雰囲気を味わいつつ「勢い」を重視して読むのが良いです。

また、本作は著者である志坂 圭が、第１回「本のサナギ賞」から登場した作家であることも魅力のひとつです。 この賞から羽ばたいた作品ならではの詰め込み感やエネルギーも感じられ、時代小説を通じて「男の成長」「自然との闘い」「宿命への挑戦」というテーマが強く打ち出されています。

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