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シリーズの世界観を引き継ぎつつ、これまでとは異なる側面を描き出す作品です。舞台は大正14年の秋。東邦星華高等女学院の女学生たちは、かつて朝香中学の男子野球団と激闘を繰り広げた後の静かな日常を過ごしていました。そこに「公園で演奏される楽隊をみんなで応援したい」という願いを持つ川島乃枝の思いをかなえるべく、鈴川小梅は仲間との交渉を試みます。しかしその結果として、学園で一、二を争う美貌の月映巴との「ランデヴー」が実現することになります。巴は「新宿まで市電で出かけたい」という提案をし、小梅は級長・宗谷雪の家で誂えられたばかりの洋服をまとって巴と市電に乗り込みます。新宿の屋台で団子を楽しむ最中、乃枝にそっくりな少女が姿を見せます。実はその少女・長滝紅葉は大阪のアーミナ女学校に通う乃枝の従姉妹でした。彼女はなぜ上京してきたのか。それを契機に、東西の「屋台グルメ対決」が物語の柱として立ち上がります。東邦星華の女学生チームと、大阪アーミナ女学校の面々が、屋台運営によって集客力を競い合うという提案が提示されます。これは単なる美食競争ではなく、女性の社会的な制約や男女の観念が色濃く残る時代にあって、屋台商売という活動自体が挑戦となる設定です。

本作にはメインストーリー以外に、短編として「菊と風鈴」が収録されています。物語の構成は四章＋短編。読みやすさと展開の緩急が意識されています。物語中、味覚や食文化の描写が非常に丁寧であり、読んでいると自然と屋台のたこ焼きや団子、洋食の香りが頭の中に広がります。シリーズ既刊巻との連続性も強く、第1巻で確立された女学生たちの野球への挑戦、第2巻の合宿や対戦を経て、ここではスポーツ以外の戦い＝「食と交流」の局面にフォーカスが移ります。シリーズ全体の魅力であった「大正モガたちの可憐さ」「友情と恋のゆらぎ」「当時の文化と風俗の再現」が、この巻でも遺憾なく発揮されています。

作者である神楽坂淳は、これまでの巻で描かれた「女性の社会的制約への抵抗」というテーマをこの巻でも発展させています。女性が屋台を引くという描写は、当時の常識や偏見とのせめぎ合いを孕んでおり、ただの娯楽描写にとどまりません。編集者コラムでも、本作では「女学生が屋台商売をする」という挑戦的な舞台設定が売りとされており、それが物語に厚みを与えていると紹介されています。 出版社・小学館の公式書誌情報でも、あらすじとして屋台を通じた東西対決という要素が強調されています。 また電子版紹介では、物語の出発点や主要な展開が端的に示されています。

シリーズ前半がスポーツ中心であったところから、日常系の細やかな描写や食文化との絡みを重視する構成へとバランスを振った挑戦作と考えられます。読者にとっては、女学生たちが新たなフィールドで個性を発揮する姿を楽しめると同時に、大正期の風俗と心情の揺らぎを味わい深く感じられる体験になると思われます。

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