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劇作家・思想家である梅原猛の原作をもとに、三代目市川猿之助によって歌舞伎として舞台化された作品です。神話と史実を融合させた重厚な物語に、スーパー歌舞伎の形式を用いた独創的な演出が加えられ、従来の歌舞伎の枠を超えた壮大な舞台芸術として評価されています。初演は1986年、東京・新橋演舞場で行われ、その後も度々再演され、平成期のスーパー歌舞伎を代表する作品とされています。

物語は日本神話の英雄・倭建命を主人公に据え、幼少期からの成長、父・景行天皇との葛藤、各地での戦いや出会いを通じた心の変化を描いています。特に熊襲討伐や伊吹山での死闘の場面では、舞台装置や音響、照明の工夫によって視覚的にも迫力が増し、観客に強い印象を残します。

演出には従来の古典歌舞伎では見られなかったワイヤーアクションや早変わり、舞台上でのプロジェクション技術などが取り入れられ、物語世界に強烈な没入感を与えています。猿之助は主人公ヤマトタケル役で圧倒的な存在感を示しながら、父の冷酷さや神々との対峙といった複雑な心理も繊細に表現しています。台詞の構造や身体表現には能楽や古代劇の要素が見られ、梅原猛の思想性を色濃く反映しています。

収録されている映像は、NHKが2004年にDVD化したもので、映像の質や編集にも定評があります。音響面ではナレーションや効果音が作品の世界観を一層深める役割を果たしており、観客が視覚と聴覚の両面から古代日本の神話世界に引き込まれるよう構成されています。撮影は舞台本番のライブ感を残しつつ、カメラワークにより演技や細部の演出まで追える仕様になっています。

なお、本作は単なる英雄譚ではなく、人間と神のはざまで揺れ動く存在としてのヤマトタケル像を通して、「死とは何か」「日本とは何か」といった哲学的な問いを投げかける側面も持っています。こうした視点は梅原猛の思想に基づくものであり、観る者に深い思索を促します。演劇作品としての完成度と思想的深みを兼ね備えた数少ない現代歌舞伎のひとつとして位置づけられています。

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